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消費税の課税選択の変更に係る特例 ~ 飲食店向け解説
新型コロナウイルス感染症により売上が著しく減少している事業者に対する税制面での支援として「消費税の課税選択の変更に係る特例」が講じられています。
特に現時点で課税売上高1,000円以下となっている免税事業者や5,000万円以下の課税事業者になっている飲食店の場合は、自身にとって一番有利な課税方式(一般課税・簡易課税)へ特例にて切り替えることが可能です。
このコラムでは、本制度の適用となるための要件や、どういったケースでどのようなメリットが想定されるかを具体的な計算例を交えて解説します。
制度の概要
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い施行された「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」では、国税関係について以下の措置を講じるよう定められています。
No | 措置事項 | 概要 |
---|---|---|
1 | 納税の猶予の特例 | 新型コロナウイルスの影響で収入が減少している場合、納税を無担保かつ延滞税なしで猶予 |
2 | 給付金の非課税等 | 新型コロナウイルス対策として市町村又は特別区から給付される給付金には所得税を課さない |
3 | 指定行事の中止等により生じた権利を放棄した場合の寄附金控除又は所得税額の特別控除の特例 | 新型コロナウイルスの影響で中止となったイベントの入場料金等の返金を求めない場合、寄附金控除又は所得税額の特別控除を適用する |
4 | 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例 | 住宅の取得や増改築等を実施したが、新型コロナウイルスの影響で居住に至っていない場合でも、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除を適用できる 等 |
5 | 大規模法人等以外の法人の欠損金の繰戻しによる還付 | 法人の令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額について、令和2年7月31日までに還付請求書を提出することにより、欠損金の繰戻しによる還付制度が適用できる |
6 | 消費税の納税義務の免除の規定の適用を受けない旨の届出等に関する特例 | 新型コロナウイルスの影響により令和2年2月1日以後に事業としての収入の著しい減少があった事業者が、事業者免税点制度を適用すること又は不適用とすることが必要となった場合において、課税事業者選択届出書等を本来の期限までに提出したものとみなす等の特例措置を講ずる |
7 | 特別貸付けに係る消費貸借契約書の印紙税の非課税 | 公的貸付機関等又は銀行等の金融機関が新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者に対して当該影響を受けたことを条件として行う金銭の特別貸付けに係る消費貸借契約書については、印紙税を課さない |
そのうち、本コラムで解説する「No.6消費税の課税選択の変更に係る特例」をよりかみ砕いて説明すると、
この特例を活用した場合、すでに適用開始され、その変更のための期限が過ぎているお店の消費税の課税取り扱いを、新型コロナの影響で大幅に状況が変わっている現在の状況を踏まえて、自身にとって最も有利な計算方法に変更することができる
となります。
また、通常消費税の課税方式については、一度申請すると、2年間はその方式を継続しなければなりませんが、今回の特例で変更したものは、2年間の継続適用要件は適用されません。
つまり、現在一番有利な方法に切り替えたうえで、次年も継続して有利ならそのままでもよいし、次年に不利になってしまった場合には、元に戻すことも可能です。
特例の対象となる事業者
新型コロナウイルス感染症等の影響により、令和2年2月1日から令和3年1月 31 日までの間のうち任意の1か月以上の期間の事業としての収入が、著しく減少(前年同期比概ね 50%以上)している事業者
が対象となります。この要件は概ね持続化給付金の給付対象者の要件と同じとなっていますので、ご自身が持続化給付金を受けた事業者であれば、消費税の課税選択の変更に係る特例も対象になると考えてよいでしょう。
申請方法と申請期限
消費税の取扱を変更したい場合は状況に応じて以下のような書類を管轄の税務署へ提出します。
- 課税事業者から免税事業者に変更したい場合 ・・・ 「新型コロナ税特法第 10 条第1項(第3項)の規定に基づく課税事業者選択(不適用)届出に係る特例承認申請書」
- 免税事業者から課税事業者に変更したい場合 ・・・ 「新型コロナ税特法第10条第4項から第6項の規定に基づく納税義務の免除の特例不適用承認申請書」
- 簡易課税と一般課税とを切り替えたい場合 ・・・ 「災害等による消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例承認申請書」
また、いずれの届出についても「新型コロナウイルス感染症等の影響により事業としての収入の著しい減少があったことを確認できる書類」を添付する必要があります。令和2年2月1日から令和3年1月 31 日までの間のうち任意の1か月以上の期間(調査期間)と、その調査期間に対応する期間の事業としての収入の金額が確認できる必要があり、国税庁は以下の書類・帳票を例示しています。
- 損益計算書
- 月次試算表
- 売上帳
- 現金出納帳
- 預金通帳のコピー
申請期限について、課税事業者を選択する場合は法人では特定課税期間の末日の翌日から 2か月以内、個人事業主では3月末日までとなり、
課税事業者の選択をやめる場合は基本的に特定課税期間の確定申告書の提出期限となりますが、
総じて国税通則法第 11 条の規定の適用により、この承認申請の期限を延長することも認められるため、当面柔軟な取り扱いがされるものと考えられます。
想定される利用ケース例①免税事業者→課税事業者(一般課税)
消費税の仕組みをあらためておさらいすると、お客様へ売上時に受け取った消費税「仮受消費税」が、お店の仕入や物品購入を行なった際に支払った消費税「仮払消費税」より多い場合に、その差額を納税することになります。そして、通常年間の売上が1,000万円以下の飲食店の多くは、差額の納入が不要となる免税事業者を選択されていることが多いと思います。
ただ、2020年に関しては新型コロナウイルスの影響で売上が減る一方、感染防止対策としてアクリル板やマスク、アルコール消毒液の購入や、テイクアウト販売のための容器購入などといったような支払いが大きくなっていると考えられます。もし、「仮受消費税」が「仮払消費税」より少なくなくなっているようであれば、免税事業者から課税事業者(一般課税)に切り替えることで、消費税の還付を受けることができます。
この構図をまとめると、下記の表のようになります。
免税事業者における計算イメージ(消費税は軽減税率考慮せず一律10%で計算しています)
売上 (仮受消費税) |
仕入その他購入 (仮払消費税) |
消費税納付の扱い | |
---|---|---|---|
2019年 通常の収支 |
900万円 (90万円) |
500万円 (50万円) |
本来40万円納付が必要だが免税事業者のため納付不要 |
2020年 コロナ禍 |
400万円 (40万円) |
550万円 (55万円) |
課税事業者(一般課税)に切り替えることで15万円還付を受けられる |
しかも、この特例は2年間の継続要件が適用されないので、2021年にお店の状況が通常の収支に戻った場合には、再び免税事業者に戻ることが認められます。
想定される利用ケース例②課税事業者(簡易課税)→課税事業者(一般課税)
簡易課税制度はお店の売上に、事業・業種別の平均的な”みなし仕入率”を乗じることで仮払消費税を算出し、実際の仕入や物品購入で支払った消費税額に関わらず納税額を決定する制度です。例えば売上が2,000万円で仮受消費税は200万円の場合、飲食店は第四種事業に分類されていて、そのみなし仕入率は60%となっています。よって仕入は1,200万円、その仮払消費税は120万円とみなされ、仮受消費税200万円-仮払消費税(みなし)120万円で80万円が納税額となります。
そして、こちらも先ほどの“想定される利用ケース例①”同様、新型コロナウイルスの影響で売上が減少する一方でコロナ対策のための支払いが増加している場合、簡易課税から一般課税に切り替えることで消費税納付額の減額または還付を受けることができます。
この構図をまとめると、下記の表のようになります。なお、本来は例えばお店で物販を行なっている場合は、その分の売上は別のみなし仕入率で計算する必要があり、テイクアウトに関しては軽減税率で計算する必要がありますが、ここでは一律第四種事業にて販売したものとし、消費税は10%にて試算しています。
簡易課税→一般課税への変更イメージ
売上 (仮受消費税) |
みなし仕入 (仮払消費税) |
実際の仕入・支払いと (仮払消費税) |
消費税納付の扱い | |
---|---|---|---|---|
2019年 通常の収支 |
2,000万円 (200万円) |
1,200万円 (120万円) |
1,000万円 (100万円) |
一般課税では100万円納税が必要だが、簡易課税のため80万円の納付でOK |
2020年 コロナ禍 |
900万円 (90万円) |
540万円 (54万円) |
900万円 (90万円) |
簡易課税のままだと36万円納付が必要であるが、一般課税では納付は0円でよい |
そして、こちらの切り替えも2年間の継続要件が適用されないので、次年は状況に応じてこのままとすることも、元に戻すこともできます。
まとめ
以上、このコラムでは消費税の課税選択の変更に係る特例について、飲食店で想定される具体的な利用イメージを交えて解説しました。
なお、これまで免税事業者や簡易課税制度を採用していた個人の飲食店で、この特例を利用して一般課税の消費税計算を行なう場合は、消費税の仕訳と計算作業に関する作業ボリュームが増えることになると思われます。
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