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消費税の「総額表示義務」 ~ 飲食店が知っておきたい対応と工夫例
令和3年4月1日から消費税の「総額表示義務」が再開されました。平成25年10月1日から令和3年3月31日までの長きに渡って特例が講じられていたため、今回の対応がはじめての方もいらっしゃるのではないでしょうか?
また、現在は新型コロナウイルスなど特殊な要因も発生しています。そこでこのコラムでは、飲食店が知っておきたい消費税の「総額表示義務」対応と工夫例を紹介します。
総額表示義務とは?罰則はあるの?
まず、そもそも「総額表示義務」とは何かという点について、国税庁ホームページの説明から、ポイントを押さえていきましょう。
「総額表示」とは、消費者に商品の販売やサービスの提供を行う事業者が、値札やチラシなどにおいて、あらかじめその取引価格を表示する際に、消費税額(地方消費税額を含みます)を含めた価格を表示することをいいます。
例えば、税抜1,000円のメニューについては従来、
- 1,000円(税別)
- 1,000円(本体価格)
- 1,000円(+税)
と記載したほうが安く感じていただけるということで、このように表示されている飲食店が多いと思いますが、この表示方法は、消費税が8%から10%へと段階的に引き上げられる状況の中で特例として認められていたもののため、認められなくなります。
「総額表示義務」では、以下のような記載に変更する必要が生じます(イートインで標準税率10%が適用される場合)
総額表示の例
- 1,100円
- 1,100円(税込)
- 1,100円(税抜価格1,000円)
- 1,100円(うち消費税額等100円)
- 1,100円(税抜価格1,000円、消費税額等100円)
補足
- 支払総額である「1,100円」さえ表示されていればよく、「消費税額等」や「税抜価格」が表示されていても構いません。
- 例えば、「1,000円(税込1,100円)」とされた表示も、消費税額を含んだ価格が明瞭に表示されていれば「総額表示」に該当します。ただし、1,000円の記載部分のみフォントサイズを大きくするなどの強調することは認められません。
- 総額表示に伴い税込価格の設定を行う場合において、1円未満の端数が生じるときには、その端数を四捨五入、切捨て又は切上げのいずれの方法により処理しても差し支えありません。
なお、消費税の「総額表示義務」に違反した場合の直接的な罰則や罰金はありませんが、多くの小売店、飲食店が総額表示に移行する中で、自分のお店だけ対応していない状況となりますので、お客様から価格について「分かりにくい」「(お会計時に)誤解した」などのクレームになってしまう可能性が高いと考えられます。お客様離れの可能性に加え、法律違反であるといた口コミの悪評が拡散されてしまうなどの可能性もあることから、ほとんどのお店で事実上避けられない対応と考えられます。
価格改定を考えてみよう
さて、総額表示義務への対応は、お店の商品の価格を改めて税込価格で計算しなおし、メニュー表やPOP、ホームページ上の表記をすべて「総額表示」にすればOKではあるものの、新型コロナウイルスの影響含めて、お店の売上状況や、テイクアウトへの取組状況、仕入れ価格の状況などを踏まえ、総額表示義務への対応をメニュー見直しによる販促の契機としたいところです。
様々な考え方があると思いますが、このコラムでは以下の点をご提案します。
- 一律単純計算ではなく、目玉商品とその他の定番商品の別でメリハリのある価格見直しを試算してみる
- 価格見直し試算後、さらにキリのいい価格(コロナ対応価格)に調整する
- 価格改定一覧POPを作成し、販促につなげる
それぞれの点の考え方は以下の通りです。
1.一律単純計算ではなく、目玉商品とその他の定番商品の別でメリハリのある価格見直しを試算してみる
消費税の「総額表示対応」を単純に一律に行なうと、実際には価格の変更を行なっていないにもかかわらず、お客様の印象として一律に値上げしたように感じさせてしまう恐れがあります。
そこで、お客様の来店の強い動機付けになっている目玉商品については、むしろ値下げになっているような形とし、残りの商品については基本的に一律で税込価格に計算するものの、一部の定番商品だけ、目玉商品の値下げをカバーできるよう値上げするという価格戦略が考えられます。詳しい考え方は別のコラムで解説しておりますので、ご参考になさってください。
2.価格見直し試算後、さらにキリのいい価格(コロナ対応価格)に調整する
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、非接触の安心感から、キャッシュレス決済がさらに普及しつつありますが、引き続き現金でのお支払いを希望されるお客様も多くいらっしゃいます。大手の飲食チェーンの中には100円単位や50円単位でといったような、キリのいい価格にすることでお釣りの発生回数や硬貨枚数を減らせるよう工夫をするところが出てきました。この考え方を、メリハリのある価格設定に応用します。
具体的には、上記1.の計算をしておいた上で、さらに以下のような調整を加えます。
- 目玉商品については、端数を切り捨ててキリのいい価格にする
- その他商品については、基本的には四捨五入のような形でほとんど実質価格を変更しないが、意図的に一部定番商品のみ切り上げによりキリのいい価格にする
3.価格改定一覧POPを作成し、販促につなげる
価格の改定内容が決まったら、「総額表示義務」への対応として、メニュー表やPOPすべてを税込価格に刷新します。この際、このコラムでご紹介したように目玉商品が値下げになっているような設定を行なったようであれば、別途主要メニューについての価格改定一覧POPを作成すると効果的です。具体的には、次のような表組みでPRすることで価格改定を販促材料として押し出すことができるでしょう。
商品 | 旧価格 (税抜き) |
新価格 (税抜き) |
新価格 (税込み) |
備考 |
---|---|---|---|---|
目玉商品A | 800円 | 772円 | 850円 | よりお求め安い価格に改定しました |
目玉商品B | 1,500円 | 1,454円 | 1,600円 | |
定番商品a | 1,000円 | 1,000円 | 1,100円 | 価格据え置きとなります |
定番商品b | 1,200円 | 1,227円 | 1,350円 | 申し訳ありません。食材高騰の為、価格を改定しました |
定番商品c | 1,200円 | 1,227円 | 1,350円 |
まとめ
以上、このコラムでは消費税の「総額表示義務」について、対応と工夫例を紹介させていただきました。
なお、値下げ商品についてはさらにPRするため、値上げ商品については出数の減を少しでも補うため、単純に現行のメニュー表やPOPの値段表記を税込価格に差し替えるだけでなく、必要に応じて料理の写真や構成も見直すとよいでしょう。