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小さい飲食店の開業を考えてみよう

小さい飲食店のイメージ

狭小物件での飲食店開業が注目を集めています。そこでこのコラムでは小さい飲食店の開業についてまとめました。

小さい飲食店の定義

「小さい飲食店」と言っても、どれくらいの広さを想像するかは人それぞれだと思います。本コラムでは「原則、ひとりで運営できる。繁忙期などのみ必要に応じて家族親戚、知り合いに手伝ってもらう」規模の飲食店という定義で説明します。オペレーション工夫で増減はあるものの、オーダーテイク、調理、配線、お会計、バッシング、洗い物…などをひとりでこなす想定で、カウンター席を主体に8席程度のお店をイメージしています。

想定されるメリットとデメリット

メリットは、いうまでもなく狭い店舗であれば開業初期費用が相対的に少なくて済む点に加え、人件費がかからない点が大きいといえるでしょう。別のコラム「個人事業の飲食店経営の仕組みを理解しよう!」にて詳述した通り、飲食店経営を難しくする大きな要因の1つが人件費のコントロールです。
具体的には、来店予測にあわせて過不足なく食材を準備しスタッフを待機したものの、予測より来店されるお客様が少ない場合、食材のほうは保存や調理、翌日のメニュー工夫などでまだ工夫の余地があるものの、人件費分の赤字は基本的に取り返しがつきません。この難しさがないことです。

デメリットは、売上・利益の規模が小さいことです。以下、経営者1人が週6日、昼夜働き詰めで、売上原価や経費については日本金融公庫が公表している「小企業の経営指標調査」から一般飲食店の平均を割り当てた場合の試算例です。昼は軽食喫茶、夜はアルコールドリンクも提供するカフェバーの営業をイメージしています。

開業初期

時間帯 客単価 客数 客席 客席回転数 営業日数 月商
昼営業 700 10 8 1.3 26 182,000
夜営業 1400 14 8 1.8 26 509,600
月商合計 691,600
項目 金額 対売上高比率
月商 691,600
売上原価 243,443 35.2%
諸経費 202,639 29.3%
金融費用 4,841 0.7%
営業利益 240,677 35.8%

開業1年後

時間帯 客単価 客数 客席 客席回転数 営業日数 月商
昼営業 700 14 8 1.8 26 254,800
夜営業 1400 18 8 2.3 26 655,200
月商合計 910,000
項目 金額 対売上高比率
月商 910,000
売上原価 320,320 35.2%
諸経費 266,630 29.3%
金融費用 6,370 0.7%
営業利益 316,680 34.8%

図表出所:小企業の経営指標調査などを参考にHANJO TOWN作成

この試算ではかなり忙しく働いても経営者の実入りは毎月32万円弱となっています。独立したいという思いは満たされても、労力に見合う収入という点では、雇われて働いたときの方が有利だったという場合もあるかもしれません。
もちろん、仮にバイト1人を時給1,000円、6時間、13日分お願いしたとすると65,000円かかる計算となるので、手元に残る利益は小さくなってしまいます。 よって、もっと集客できるとか、客単価が高いとかいったような差別化要素や、売上原価率が低いといったような仕組みになっていて、営業日数が少なくても売上と利益を確保できる見通しがないと、満足度が高く持続可能な起業にならない可能性があります。

想定される業態

上記で試算した喫茶店、カフェバーから発展的に考えた場合は、テイクアウトの比重が高い、飲食小売店に近い形態が考えられます。客席回転数の制約を超えて、客数を効率よく増加させることができます。また、お渡しする際に温めるか、お客様が持ち帰ってご自身で温めるといったような前提のメニューを主体にすることで、調理作業をあらかじめの作り置きに効率よく集約できます。

なお、さらに一歩進んでテイクアウト専業、飲食小売りに特化したものの代表例としてコロナ禍で流行した無人冷凍餃子、高級食パン、コロナ以前ではタピオカドリンク店などが思い浮かびます。これらのお店は、商品の効率的生産、店頭でのオペレーション最小化などによって高い利益構造であったと考えられますが、一方で模倣が容易で差別化を維持することが難しく、供給過多を経て流行が終了してしまうという面もあります。

古典的な業態として、お客様イメージとして接客サービスへの期待値が相対的に低いラーメン、そば、うどん店は、一人で切り盛りするのに気楽ではあるものの、事前の仕込みにご提供毎の茹で作業といった労力、客数・客単価の観点から、上述の試算のような利益構造に陥りやすいかもしれません。 より高い客単価を志向する場合は、鮨や海鮮丼を提供する業態は親和性が高いと考えられます。

想定される開業費用

開業するお店が都市部なのか郊外なのか、お店は賃貸なのか自宅の一部なのか、賃貸のケースで居抜きなのかスケルトンから作りこむのかといったような違いから、その開業費用は個別のケースごととしか言えないというのが率直なところになります。

日本政策金融公庫による 「2018年度新規開業実態調査」からみる少額開業の実態 では、開業者全体の長期トレンドとして年々少額費用での起業が増加している中で、業種別に少額開業(250万円未満)での開業割合と、非少額開業(250万円以上)での開業割合が示されています。 そのなかで「飲食業・宿泊業」という括りでの集計ではあるものの、飲食店の少額開業の割合は4.7%、非少額開業は16.9%となっており、相対的に飲食店は少額開業が難しい業態ということが確認できます。

次に飲食業・宿泊業の少額開業、非少額開業それぞれにおける平均の開業費用とその内訳を確認すると以下のようになっています。

項目 少額開業 非少額開業
金額(万円) 割合 金額(万円) 割合
運転資金 74.1 47.5% 195.5 15.1%
内外装工事 33.5 21.5% 481.7 37.2%
設備の購入 39.5 25.3% 230.5 17.8%
不動産の購入 0.0 0.0% 240.9 18.6%
その他 8.9 5.7% 145.0 11.2%
開業費総額の平均 156.0 1,295.0

図表出所:「2018年度新規開業実態調査」からみる少額開業の実態 よりHANJO TOWN作成

少額開業では内外装工事、設備の購入が40万円以下となっています。飲食店の内装工事は安くて1坪当たり30~50万が相場といわれているので、やはり書き出しで述べたように居抜きなどでよほどいい物件に巡り合わない限り、少額開業は難しいかもしれません。とはいったものの、このコラムでは「原則、ひとりで運営できる。繁忙期などのみ必要に応じて家族親戚、知り合いに手伝ってもらう」規模の飲食店を想定しているため、都心の一等地でもない限り1,295万円規模の開業費用はかからないと考えられます。

まとめ

以上、本コラムでは「原則、ひとりで運営できる。繁忙期などのみ必要に応じて家族親戚、知り合いに手伝ってもらう」規模の小さい飲食店の開業について考察しました。もともと相当規模の飲食店を開業しようと考えている方が、かねがね自分の考えているコンセプトやメニューが通用するかを試したいと考えていて、よい居抜き物件との巡りあわせにも恵まれたので、別途の本格店舗の開業も見据えてはじめて手掛けるお店としては、よい取り組みのように考えられます。

一方で、雇われ人としての生活に嫌気を感じている中で、初期費用も安く自己資金だけで開業できそうな居抜き物件に出会って気持ちが揺さぶられたという状況の場合は、本当に持続可能で満足度の高い起業にできるかを、いったん冷静に考えたほうがよさそうです。

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