- 事務処理・確定申告
個人経営の飲食店でもアルバイトさんの源泉徴収と年末調整が必要です
個人事業の飲食店でもアルバイトさんやパートさんを使い始めたら、自分のお店で源泉徴収や年末調整が必要かを判定し、条件に合致する場合は行なわなければなりません。なお、本コラムでは社会保険については任意加入していない前提で解説します。
開業届と給与支払事業所等の開設届
個人事業で飲食店経営を始めるにあたっては、所得税法第229条によって税務署に個人事業の開業届出を行わなければなりません。
この際、開業当初からアルバイトさんやパートさん(以下、本コラムで「アルバイト」といった場合、両者を含みます)を雇用して営業する場合には“給与等の支払の状況欄”に使用人従事員数を記載することになり、その時点で源泉徴収の義務が生じます。
当初は自分だけが飲食店経営にかかわる場合は、開業届の段階では、給与等の支払の状況欄は記入しませんので、源泉徴収の義務はありません。ただし、開業後人手が足りなくなりアルバイトを雇い始めたり、家族を専従させたりした場合には、所得税法第230条によって1ヶ月以内に給与支払事業所等の開設届を必ず提出しなければなりません。この提出によって、源泉徴収の義務が生じます。 また、この際「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出しておかないと、アルバイトに給与を支給都度、翌月10日までに税務署に源泉徴収分の所得税を納付する必要が生じます。特例を申請しておくと半年ごとにまとめて納付することが認められます。この特例は、従業員の人数が常時10人未満の事業者に認められますので、該当する場合はあわせて申請しましょう。
なお、給与支払事業所等の開設届について、それ自体に未提出のペナルティはありません。ただし、月8.8万円、年103万円を超えてアルバイトや専従者に給与が発生した場合には所得税の源泉徴収を行なわなければなりませんので、その時に給与支払事業所等の開設届を行なっておらず、源泉徴収義務を怠っているということになると、追徴課税などのペナルティを科されることになります。
アルバイトに対する源泉徴収
面接の際に確認済のことが多いかもしれませんが、アルバイトの採用を決めたら、アルバイトを掛け持ちしているか再確認してください。アルバイト先が自分のお店だけの場合、または自分のお店のほうで働く割合が多く、受け取る給与金額が他所からのものより大きくなることが明らかな場合には、速やかに「〇年分給与所得者の扶養控除等申告書」の記入提出をしてもらいましょう。また、当年中に前の勤務先があったかどうかを確認し、ある場合には「中途退職者の源泉徴収票」の提出を受けてください。
「〇年分給与所得者の扶養控除等申告書」書式の取得先は税務署です。アルバイトに提出を受けたものはお店で保管し、お店を所管する税務署や市区町村長の求めがあった場合に提示できるようにしておいてください。
そして、実際に給与が発生し、所得税の源泉徴収額を求める際は「〇年分源泉徴収税額表」を参照して使います。以下、令和5年分の例です。
具体的には、扶養親族等が0人のアルバイトへの給与が月額10万円であって、「〇年分給与所得者の扶養控除等申告書」の提出を受けている場合、甲欄に当てはめることとなりその源泉徴収額は720円となります。アルバイトには差引後の99,280円を支払うことになります。 「〇年分給与所得者の扶養控除等申告書」の提出を受けていない場合、乙欄に当てはめることとなりその源泉徴収額は3,600円となります。アルバイトには差引後の96,400円を支払うことになります。 それぞれ差し引いた金額は、税務署に納付します。
アルバイトに対する年末調整
所得税は、本来年間の所得に対して、各種の控除を加味したうえで課されるものです。したがって毎月便宜的に行っている源泉徴収の12ヶ月分の積み上げと、本来の所得税の課税額とは過不足が生じる場合があります。この過不足を調整するのが「年末調整」で、アルバイトの申告を受けて、お店側で計算する必要があります。 自分のお店で年末調整を行なう対象者は「〇年分給与所得者の扶養控除等申告書」の提出を受けたアルバイトです。提出を受けていないアルバイトは、他の勤め先にて年末調整を受けます。
年末調整の基本的な流れは、下記の通りです。
- 毎月行った源泉徴収の、年間の合計額を求めます。前の勤め先で受けた「中途退職者の源泉徴収票」がある場合には、その源泉徴収額も加算してください。
- アルバイトに、各種控除の申告あるか確認し、あればその証明書等を取得します。
- 上記1から2を差し引くことで本来の所得税を計算し、1の金額のほうが大きい場合には、差額を従業員に還付し、お店としては税務署への納付額や、納付済の額にて差額を調整します。
アルバイトに対する源泉徴収票
複数の勤務先を掛け持ちしているアルバイトは、複数の先で受け取った給与を合算し、必要に応じて確定申告を行なうことになります。税務署としては、確定申告を受けた際それが事実であるかどうかを確認できる必要があります。そのために、お店としては源泉徴収票を2通発行し、1通は税務署に、1通はアルバイトに提供する必要があります。
したがって、源泉徴収票については「〇年分給与所得者の扶養控除等申告書」の提出を受けておらず、源泉徴収を乙欄で行っていて、年末調整もお店で行っていないアルバイト分含め、全員分発行する必要があります。年途中に辞めてしまうアルバイトへも、次の職場で年末調整を受けたり確定申告をしたりするために「退職所得の源泉徴収票」という形で退職日から1か月以内に交付が必要です。
まとめ
以上、本コラムではアルバイトを雇い始めると必要になる可能性のある、源泉徴収と年末調整について解説しました。最後に、アルバイトからの「〇年分給与所得者の扶養控除等申告書」の提出有無をポイントに、必要となる事項をまとめます。
処理事項 | 提出有り | 提出無し |
---|---|---|
給与支払時の源泉徴収 | 源泉徴収税額表の甲欄を使用 | 源泉徴収税額表の乙欄を使用 |
年末調整の実施 | 必要 | 不要 |
源泉徴収票の発行 | 必要 | 必要 |
なお、当サイトHANJO TOWNでご紹介している「HANJO給与」サービスでは、市販のスマホ・タブレット等をタイムレコーダー代わりにできる専用アプリをご提供しており、アルバイトにSuicaなどICカードで打刻させることで、毎日の勤怠管理、毎月の給与計算、そして年末調整計算を自動化することができます。
また、自分の家族にお店を手伝ってもらう場合については、別のコラムで詳しく解説しておりますので、よろしければ参考にしてください。