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個人事業主の飲食店 経費計上のポイントを解説!
個人事業主の確定申告では、よく「経費で落とす」といわれるように、必要経費を抜け漏れなく織り込んで事業所得を計算したいところです。そこでこのコラムでは、飲食店経営で想定される経費計上のポイントについて解説します。
本コラムの目次
個人事業主の確定申告計算の流れ
個人事業の飲食店経営者の確定申告は、飲食店の営業による「売上」から、食材費の仕入を「売上原価」として、営業のために必要な人件費・店舗の家賃に加え減価償却費などを「必要経費」として差し引いて「事業所得」を計算します。
そして、その「事業所得」から更に、経営者自身とその扶養家族における医療費や保険料は「所得控除」をすることができ、所得控除後の金額が「課税所得額」となり、最終的にその「課税所得額」に対して税金がかけられます。
したがって、納税額を低く抑えるには、以下の点がポイントになります。
- 「必要経費」を抜け漏れなく計上して「事業所得」を小さくする
- 「所得控除」を抜け漏れなく申告して「課税所得額」を小さくする
このうち本コラムでは上記1.「必要経費」の計上について、飲食店の個人事業主が知っておきたいポイントを解説します。
上記2.「所得控除」の申告については、別のコラムで詳しく解説していますので、よろしければあわせて参考にしてください。
飲食店経営で想定される経費の一覧
国税庁が提供している「帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)」には、別表として一般的な必要経費の一覧表が掲載されています。以下、飲食店経営において発生が想定される支出がどのように「必要経費」に該当するかをまとめました。
項目 (勘定科目) | 国税庁冊子に記載の具体例 (抜粋) | 飲食店における該当例の補足 |
---|---|---|
給与賃金 | 給料、賃金、退職金、食事や被服などの現物給与 | スタッフへの「まかない」の提供について、無料としている場合、その費用は給与賃金に該当 |
外注工賃 | 修理加工などで外部に注文して支払った場合の加工費など | |
減価償却費 | 建物、機械、船舶、車両、器具備品などの償却費 | 10万円以上の業務用冷蔵庫やガスレンジなどが該当 |
繰延資産の償却費 | 開業費や開発費、共同的施設の負担金や建物を貸借するための権利金などの償却費 | 保健所の営業許可取得費用や、オープン前のスタッフのトレーニングに要した食材費や人件費は開業費として計上し、確定申告で償却計上 |
貸倒金 | 売掛金、受取手形、貸付金などの貸倒損失 | |
地代家賃 | 店舗、工場、倉庫等の敷地の地代や店舗、工場、倉庫等を借りている場合の家賃など | |
利子割引料 | 事業用資金の借入金の利子や受取手形の割引料など | |
租税公課 |
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荷造運賃 | 販売商品の包装材料費、荷造りのための費用、運賃 | 飲食店におけるテイクアウト商品用包装材は消耗品費での処理も一般的 |
水道光熱費 | 水道料、電気代、ガス代、プロパンガスや灯油などの購入費 | |
旅費交通費 | 電車賃、バス代、タクシー代、宿泊代 | |
通信費 | 電話代、切手代、電報料、インターネット接続料 | |
広告宣伝費 |
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接待交際費 |
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損害保険料 | 火災保険料、自動車の損害保険料 | |
修繕費 | 店舗、自動車、機械、器具備品などの修理代 | |
消耗品費 |
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福利厚生費 |
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「まかない」の提供について、スタッフが半額以上負担し、店舗が負担する額が一人当たり一ヶ月3500円以下の場合、その費用は福利厚生費に該当 |
固定資産等の損失 | 事業用固定資産や繰延資産の施設の取壊しや災害による滅失などの場合の損失 | |
雑費 | 事業用の費用で他の経費に当てはまらない経費 |
なお、上記表の項目(勘定科目)は、国税庁が配布している“収支内訳書(一般用)”や“所得税青色申告決算書(一般用)”書式などにもあらかじめ印刷されているので、この表の定義範囲で日々の必要経費を仕訳しておくとスムーズである一方、もっと飲食店で馴染みのある言い方で経費の支出を整理しておき、後日の見直しなどに活用したいという場合もあるかと思います。
例えば、上記表の消耗品費では、お客様に提供するためのおしぼり、割り箸、ストローなどの購入費と、お店の衛生管理のための洗剤や殺虫剤、制服のクリーニング代、ゴミ処理代などが含まれていますが、後者について、国税庁の一覧表には存在しない「衛生費」という項目(勘定科目)を作って別途整理集計しても構いません。 「広告宣伝費」という言い方にどうしても違和感があって、「販売促進費」のほうがしっくりするという方は、項目(勘定科目)の名称を変えてしまっても構いません。“収支内訳書(一般用)”や“所得税青色申告決算書(一般用)”などでは、そういった項目を記入できるような空欄が用意されています。
このように、勘定科目は、後日自分で振り返りやすい名前のものを作成して構いませんが、ただし、一度項目(勘定科目)の名称とそこで整理集計する対象を決めたら、以後、基本的に変更せず一貫して使用するようにしてください。
以上、飲食店経営で想定される経費の一覧を紹介しました。ここからは上記のなかで「必要経費」を抜け漏れなく計上して「事業所得」を小さくするための、いくつかのポイントを説明します。
ポイント1.青色申告による専従者給与の経費化や少額減価償却資産の特例など
個人事業主の確定申告には、簡易な方法による記帳に基づく「白色申告」による申告と、複式簿記による記帳に基づく「青色申告」による申告があります。
白色申告の場合、生計を一にする配偶者やその他の親族に支払った給与等を必要経費に算入することができませんが、これらの方が専ら事業に従事している場合には、事業専従者控除として、配偶者は最高
86 万円、15 歳以上のその他の親族は最高 50
万円を必要経費とみなすことができます。
青色申告であれば、専従者について届出を税務署に提出し、その通りに給与を支給すれば、金額が多寡でない限り、家族に支払う給与を経費とすることができます。
また、青色申告では「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」も利用できます。通常は10万円以上の資産を購入すると、一度固定資産として計上して、毎年少しずつ減価償却して費用化する必要がありますが、この特例では、取得価額30万円未満の資産について、全額を一挙に必要経費とすることが認められます。
例えば年末時期にあらかじめ今年の利益が大きくなりそうなことが見通している場合、来年に備えて30万円未満のノートパソコンなどを購入すると、設備投資をしつつ節税も図れることになります。
この特例は平成18年4月に設定され、その後延長適用が続いています。令和4年度の税制改正でも、2年間延長されることになりました。
なお、上記以外にも青色申告によるメリットは大きく、詳しくは別のコラムで解説しておりますので、必要に応じて参照してください。
ポイント2.家事按分
家事按分とは、例えば3階建ての自宅の1階を店舗として使用している場合などで、電気・ガス・水道などの水道光熱費やインターネットの利用料などを支払った際、その何%が店舗分(事業用)で、何%が自宅分(個人の生活用)かを計算することです。店舗分(事業用)は、事業にかかった経費として計上できます。
例えば、上記の場合の水道光熱費(電気代)の家事按分については、一般的に次のような計算が考えられます。
①使用時間を基準にする
仕込みや営業時間含め、店舗で仕事をしている時間が1日10時間、それ以外の時間が14時間という場合で、年間36万円の電気代がかかっているという場合、36万円のうち15万円(24時間のうち10時間分)を、事業用の必要経費として計上する
②コンセント数を基準にする
1階店舗のコンセント数が20個、2階より上の自宅部分のコンセント数が30個の場合で、年間36万円の電気代がかかっているという場合、36万円のうち14.4万円(コンセント総数50個のうち20個分)を、事業用の必要経費として計上する
あいまいな基準で家事按分比率を設定すると、税務調査にて「個人利用分が多いのに、店舗分として計上しすぎている」という指摘により否認されてしまいます。明確な説明ができる基準を決める必要があります。
また、一度作った基準は継続して使用することが原則ですので、後々家事按分で不利にならないようにも考えておく必要があります。以下、先ほど説明した電気代に加え、個人用と店舗分で兼用されがちな車のガソリン代や電話代の家事按分比率基準の設定例を紹介します。
項目 (勘定科目) | 家事按分比率基準の設定例 (抜粋) | 補足 |
---|---|---|
電気代 (水道光熱費) |
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詳細は上述の通り |
車のガソリン代 (旅費交通費) |
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事業のための走行について、行先や目的など記録に残すことが重要 |
電話代 (通信費) |
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事業のための走行について、行先や目的など記録に残すことが重要 |
ポイント3.旅費交通費
上述で紹介したガソリン代と同様、例えば金融機関や取引先への訪問、セミナーや展示会への参加などのために鉄道を利用し、遠方の場合は宿泊した場合も、それがプライベートの旅行目的ではなく事業のための支出である場合は旅費交通費として経費計上することができます。それに関連する領収証やレシートを必ず保管しましょう。
切符代など領収証が出ない場合は、その際の行先や目的を記録に残すことが重要です。また、ICカードを利用している場合は、利用明細から事業用の移動分を抜き出して、その分についての行先や目的などを記録に残しておき、指摘を受けても明瞭に説明できるようにしておくとよいでしょう。
ポイント4.接待交際費
小規模法人においては接待交際費の年間の計上額を800万円までとするか、または接待飲食費の計上は半額までにするかといったような制約がありますが、個人事業主の場合、接待交際費の計上に上限はありません。
かといって、当然のことながらプライベートの会食費用などは、経費として計上することは認められません。接待交際費計上のためには以下の点を押さえるようにしてください。
- 関連する領収証やレシートの保管
- 接待相手と目的の記録
ポイント5.福利厚生費(まかないの扱い)
スタッフへの「まかない」の提供について、無料としている場合、現物給与とみなされその費用は給与賃金に該当します。経費計上という観点では同じですが、給与賃金に該当する場合は、別途源泉徴収計算などが必要になり、事業主にとっては事務負担が増え、従業員にとっては給与手取り額を減少させる計算となります。
「まかない」を福利厚生費の範囲で処理するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 従業員がまかない費用の半額以上を負担していること
- 月間の従業員一人当たりのまかない費用から、①を差し引いた金額が税抜3,500円以下であること
ポイント6.繰延資産の償却費(開業費の任意償却)
開業費とは“開業の準備行為を開始した日”から実際にお店をオープンし開業届に記入する「開業日」までに要した、以下の下記の3つの要件を満たす支払いです。
- 事業に関する費用であって、かつ、支出の効果が1年以上に及ぶもの
- 資産の取得に要した費用もしくは、前払費用でないこと
- 開業準備のために特別に支出した費用であること
具体的には、以下のような支出は一般的に開業費に算入できます。
- 店舗コンセプト検討段階での書籍などの資料購入費。セミナーへの参加費用や旅費交通費
- 物件探しをしている際の、検討現場への旅費交通費
- 開業に向けて打ち合わせや通信に要した費用
- 料理・メニュー開発のために、競合店や同業態の人気店での調査目的の食事料金や料理の試作費用
- オープニングスタッフ確保のための求人広告費用、マニュアル制作費等
そして、算入した開業費の総額は、税法上の繰延資産としての「開業費」となり、決算の時に任意の金額を償却して経費とすることができます。具体的な活用イメージを示します。
開業1年目
店が幸い黒字という場合でも、手持ちの現預金は潤沢ではないケースも多いと思われます。開業費の任意償却の額を調整して計算上損益均衡とすることで納税負担をゼロにすることができます。
開業3年目
お店が想定以上に繁盛し、大きな利益を上げている場合に、開業費を一挙に任意償却することで、税負担を大きく減らすことができます。
なお、飲食店の「開業費」の、計上可能期間や該当する支出については、別のコラムで詳しく解説しております。
まとめ
以上、本コラムでは個人事業主の飲食店経営で想定される経費計上のポイントについて解説しました。なお、本サイトHANJO TOWNでご紹介している飲食店専用クラウド会計ソフト「HANJO会計」は、あらかじめ経費の項目(勘定科目)が飲食店用に設定されており、支払い時のレシートをスマホで撮影すれば自動で仕訳を行なえます。面倒な家事按分計算も比率を登録しておけば自動で一括計算できます。抜け漏れのない経費計上がとても便利に行えますので、よろしければご利用ください。サービスの詳細はこちらをご覧ください。
勘定科目が分からなくても大丈夫!スマホのカメラでレシートを撮るだけで解析エンジンで文字を認識し、最先端のAI技術で勘定科目を自動推測し仕訳ができます。
また、仮登録機能で時間のある時にまとめて仕訳登録できます。Excel上に複式簿記で入力するのに比べて、1/3の時短で仕訳データを登録できます。
仕訳が終わったら、スマホ画面に表示されるガイド機能「確定申告NAVI」に沿って進むだけで青色申告書が完成します。 家事按分や減価償却といった小難しいことも、「確定申告NAVI」が丁寧にガイドします。
e-Taxによる青色申告に対応しており、65万円の特別控除の要件を満たしています。
※本コラムは一般的と考えられる各所得の取扱事例を紹介しております。個別のすべての取扱を説明・保証する主旨のものではありません。個別の事情などでご不明点がある場合には、所管税務署やご契約の税理士にご相談ください。