- メニュー作り
飲食店のメニュー価格 ~ 決め方と見せ方
稲森和夫氏は「経営の死命を制するのは値決め(値決めは経営である)」という言葉を残しました。飲食店における価格設定も、お客様層、競合との兼ね合い、原価、獲得すべき利益、相場感、物価動向の織り込みなど、考えれば考えるほど奥深く難しいテーマです。
このコラムでは、飲食店がメニュー価格を検討する際、参考になりそうなセオリーについてまとめています。少しでも参考になりましたら幸いです。
本コラムの目次
コストプラス法で一旦試算してみる
コストプラス法とは、メニューの原価を計算し、そこに利幅を加えて価格設定する方法です。採算面で目安となる価格を把握することができるので、一旦コストプラス法で各メニューの価格を試算してみるとよいでしょう。
飲食店経営では、この利幅の中から、お店の人件費、家賃、水道光熱費、融資返済等の支払い原資をねん出したうえで、利益を残さなければなりません。
業態によって多少異なりますが、最終利益を残すために
飲食店が目安として意識したい原価率は30%になります。例えば、原価が300円のメニューは、コストプラス法での価格設定は1,000円という計算になります。
一旦、30%の原価率の基準としたコストプラス法で、すべてのメニューの価格を洗い出してみましょう。なお、原価計算の例は、以下のコラムも参考にしてください。
競合を考える
コストプラス法によるメニュー価格を洗い出したら、次に競合を検討します。自分のお店と同じようなお客様層を狙っている 周辺の飲食店において各メニューがいくらくらいの相場感になっているかを把握しながら、価格を調整していきます。
例えば、生ビール中ジョッキ1杯あたりの原価が200円だった場合、上記のコストプラス法の計算では666円という計算となりますが、周辺飲食店が500円前後で提供している場合、価格をあわせる必要があるでしょう。
逆にえだまめについて、冷凍の業務用のものを大量に仕入れられるので、コストプラス法で計算した販売価格が100円だったとしても、周辺飲食店が300円前後で提供しているとすれば、定番商品ということもあり100円の3倍の値段でも出数を期待できます。
このようにして、コストプラス法によって計算した価格を調整していきます。当然単品ごとには原価率が目安である30%より高いものや、逆に低いものも出てきます。 メニュー全体として原価率が30%以内になるように意識しましょう。
付加価値を考える
このようにして競合も参考に価格設定を見直した後、
メニュー毎に付加価値が付けられないか再検討します。例えば、一旦は500円とした生ビールについて、特別な陶器のジョッキで提供することで、600円での価格設定も可能かもしれません。
あるいは、盛り付けや配膳の工夫による付加価値アップも考えられます。例えばしめさばについて、お客様の目の前で炙るなどの工夫が考えられます。この方向性で検討する場合は、できるだけ負担の少ないオペレーションで実現できることがポイントになります。
当然、お店の雰囲気や接客のサービスレベルで差別化が見通せる場合は、メニュー全般に高めの価格設定を検討できます。
このように
付加価値の検討をしていくことで、原価率を下げて利幅を拡げることができます。
目玉商品を考える
目玉商品について、希少性の高い食材等や調理によって付加価値高く実現できればベストですが、居酒屋など複数メニューのオーダーが想定される業態の場合は、破格の商品を検討してもよいでしょう。
例えば、居酒屋の店頭に「時間限定お1人1皿!国産黒毛和牛のステーキ200グラムが19時まで500円!」などのPOPが貼ってあったらお客様の目を惹くと思いませんか?もちろん、入店してくださったお客様はこの集客商品であるステーキ以外のメニューも多数頼んでくださるはずです。仮にステーキの原価率が100%に近いとしても、その他の収益メニューで粗利を落としてくださります。
このように最終的に客単価に対して原価率が30%以内に収まることを見通せる場合、破格の目玉商品を集客商品として打ち出すのも有効となります。
3段階の価格設定に集約し、大台割れの価格で訴求
ここまでの検討では、単品ごとに適正価格を検討してきましたので、その価格は統一感がないとおもいます。特に居酒屋等複数メニューがオーダーされる飲食店では、グルメサイト等で告知して、自分のお店がターゲットとしている客単価に対応させる形で、 各メニューを3段階の価格に集約するとよいでしょう。
例えば、以下のオーダー獲得を想定しているお店の場合で考えてみましょう。
- FD比率:フード55%,ドリンク45%
- フード4品
- ドリンク3杯
- 客単価3,500円
フードについて500円を中心価格帯として、700円の付加価値メニューと300円のスピードメニューを用意します。
ドリンクも全体に500円とし、一部の銘酒を700円、ソフトドリンクを300円の価格帯にすると、お客様のほうで予算感に応じて注文しやすくなり、「この店、思ったより高い」といったようなギャップを抱かれてしまうことも少なくなります。
なお、
「大台割れの価格」といわれる手法として、700円、500円、300円の価格帯について、それぞれ690円、490円、290円に設定するとお得感を演出することができます。
セットメニューを考える
原価率の高い人気メニューに出数が集中してしまい課題となっている場合には、
ドリンクとセットにして利益率を高めるという手法が考えられます。
例えば おさしみ盛り合わせ700円 原価400円(原価率57%)が課題の場合は、500円の価格帯のお好きなドリンクとセットで1,000円のセットメニューを設定すると、お客様にお得感を感じていただきながら、利益率を改善できることになります。
ランキング訴求等による誘導
初めて入ったお寿司屋さんで握りのセットを頼むことを想像してください。 梅を頼んでパッとしない握りが出てきたら嫌だし、だからと言って松では自分のサイフにとっては少し痛いし、まあここは無難に真ん中の竹を選んでおこうかな?となる場合が多いように思います。
お客様の心理としては
「豪華すぎるものは自分にとってはナシだけど、一番安いものを頼んでガッカリするのも嫌だから、無難な真ん中を選ぶ」のです。まずは3段階で値段を設定し、店内に貼り出すPOPなどは、「真ん中の値段のものが一番おすすめなんだろうな」とお客様に感じていただけるように、色を変えたり少し文字を大きくされるなどの工夫をされても良いかもしれません。
また、はじめてのお店で、なにを頼もうか迷っているお客様の場合、人気メニューランキングが示されていれば、それを頼むというお客様も多いようです。
まとめ
以上、本コラムでは飲食店がメニュー価格を検討する際、参考になりそうなセオリーについてまとめました。 お店ごとの業態や立地、お客様層の違いなどから、これが正解というのは提示しがたいテーマではありますが、このコラムが部分的にでもヒントや手がかりになりましたら幸いです。